時間学入門

#06

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暦あれこれ 東西の暦
月の満ち欠けをベースにした東洋の「太陰太陽暦」

東洋でもっとも古い暦とされているのは、古代中国の殷(いん)の時代(紀元前17世紀頃~紀元前1046年)の遺跡から出土した、月名と干支を刻んだ甲骨文字だとされています。この暦の原型というべきものは、13月の表記があり、月の満ち欠けを基本とする太陰太陽暦だったようです。

同じく中国で、暦が明確な記録として史書にも載せられるのは、漢の時代からです。「太初暦(たいしょれき)」は漢の太初元(紀元前104)年~後漢の元和元(84)年の188年間にわたって使われています。

この太初暦は、月の満ち欠けを基本に太陽の動きも加味した「太陰太陽暦」でした。新月から満月を迎えるまでのサイクルはおよそ29.5日なので、これを12カ月とすると1年は354日になりますが、季節変化に比べて11日ほど短いため、3年経つとその差はほぼ1カ月に達します。その1カ月を閏月にすることで、季節とのずれを正していました。中国で成立した太陰太陽暦は、やがて日本にも伝来し、使われるようになります。9世紀に伝来した「宣明暦(せんみょうれき)」は、江戸時代に至るまで823年間も継続して使用されました。こんなにも長期間にわたり使われた理由は、宣明暦がそこそこ優秀な暦だったことに加え、遣唐使の廃止や相次ぐ戦乱などの影響もあるでしょう。その後も、太陰太陽暦は、改暦を重ねながら明治に至るまで長く使われることになります。

日本人が太陽暦をベースとした手帳やカレンダーを使うようになったのは、ごく最近のことなのです。

西洋は平均値が頼りの旧暦法から世界標準へ

西洋でも太陰太陽暦は存在しました。これは、月の満ち欠けをもとに季節と調整するという点では東洋のものと同じですが、月の満ち欠けが平均29.5日、実際には29.3~29.8日までばらつきがある中で、平均値だけを使っており、閏月を挿入するタイミングも固定されていました。長期的なずれが少なければ良しとされ、細かな天象との差異は気にしないという大雑把な側面もあったのでしょうか。

なお、太陽暦のほうは紀元前2000年よりも前に古代エジプトで使われていた暦がもっとも古いとされています。

古代エジプトでは、毎年農業を営むうえでの重要な出来事であったナイル川の氾濫時期を知るために、恒星シリウスが日の出直前に昇るのを観測しました。そのうちに、観測からシリウスが昇る日は365日の暦と次第にずれること、平均すると365.25日おきとなることをつきとめました。ただ、古代エジプトでは閏年を挿入しなかったので、暦と季節のずれは拡大していきました。紀元前238年には閏年を導入しようとした形跡も見つかっていますが、当時は定着しなかったようです。

西洋の文明の中心となるローマでは、当初太陰太陽暦もどきの変則的な暦が使われており、しばしば季節とのずれが生じて混乱を招いていました。そこで、エジプトを征服したユリウス・カエサルは紀元前45年に、エジプト暦を改良してユリウス暦を制定しています。4年に1回の閏年、各月の名称・日数など、現在も続く太陽暦の原点はここに誕生しました。

ユリウス暦の導入により暦と季節のずれは小さくなりましたが、それでも長い年月がたつと次第にずれていきます。このずれが、結果的に正確な太陽暦への改良を促し、1582年にローマ教皇グレゴリオ13世による、グレゴリオ暦の導入に至ります。グレゴリオ暦では、同年10月4日(木)の翌日を10月15日(金)とし、ユリウス暦で入れすぎた閏年の分だけ日付を飛ばしました。また、ユリウス暦に比べて400年で3日間、閏年を減らし、400年間における1日の平均日数は365.2425日と、数千年でようやく1日ずれる程度にまで縮めました。

イスラム教圏に目を向けると、いまでも宗教的祭日や休日をヒジュラ暦と呼ばれる太陰暦に基づいて決めている国があります。イスラム諸国の国旗に三日月が多いのは、ヒジュラ暦の新月が太陽と同じ方向にあって見えない月(朔)のことではなく、それから1~2日後、再び夕方の西の空に見えだす細い月のことを指すためでしょう。この暦は閏月による季節調整をしないので、断食を行うラマダーンは太陽暦と比べると毎年11日ずつ早まっていきます。

同じ月の観測からつくられる暦でも、地域や文化の違いで捉え方や作成法が大きく異なることは興味深いですね。

片山真人
国立天文台 暦計算室長。著書に『暦の科学』(ベレ出版)、『現代の天文学 13 天体の位置と運動』共著(日本評論社)、『星の地図帳 太陽系大地図』共著(小学館)、『理科年表シリーズよくわかる宇宙と地球の姿』共著(丸善)、『これから見られる日食と月食データブック』(誠文堂新光社)

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