映画

スクリーンは語る

スクリーンは語る #05 her/世界でひとつの彼女
イメージ 主人公の男は、たいてい天と地の中間にいる。彼のライフスペースは高層ビルの一室にあり、そこからは大きな空やほかのビル群が見渡せる。音声認識OSに恋をする、〝地に足がついていない〟彼にぴったりのロケーションだ。だって顔も体も持たない、声と知性だけの人工知能を愛するなんて――。機械と人間、魂と肉体、そうしたもののあいだを行き来する彼自身を象徴するような部屋で、セオドア(ホアキン・フェニックス)とサマンサ(スカーレット・ヨハンソン)は仲睦まじく、あるいはときに大きなハードルを抱えて過ごしている。この部屋の窓から見える空の光は、いつも、まぶしいくらいに煌めいている。
スクリーンは語る #04 ヒロシマ・モナムール
イメージ 「広島で何もかも見たわ」と言う女に対して、「君は何も見ていない」と答える男。『ヒロシマ・モナムール』における、冒頭のこのやり取りは、認識そのものの多義性を考える上で興味深い。1959年の日本公開時には『二十四時間の情事』という邦題がつけられた本作では、反戦映画のロケのために日本を訪れたフランス人女優と、広島在住の日本人技師との間の一日の恋が描かれる。先述の台詞は、ふたりが肌を重ねる中で発せられたものであり、女が広島において被爆者たちの治療風景、原爆資料館に所蔵される焦げた鉄や焼け残った石、またキノコ雲の模型などの、原爆が残した傷跡を見たことがその論拠となっている。
スクリーンは語る #03 ハドソン川の奇跡
イメージ 「事実は小説よりも奇なり」という英国の詩人バイロンの言葉にも表れているように、わたしたちの人生は時にフィクションを超えた数奇な出来事に遭遇することがある。それは人生に裏切るかもしれないし、あるいは思ってもみなかった幸運をもたらすかもしれない。少なからず言えるのは、そのような出来事を体験した以前/以後で人生が大きく変わるということだろう。本作の主人公であるサリー機長(チェスリー・サレンバーガー)もまた数奇な出来事に遭遇し、人生が大きく変わった一人である。
スクリーンは語る #02 6才のボクが、大人になるまで。
イメージ 映画の中で長い時間軸の物語が設定される場合、俳優個々の肉体的または心理的要素の変化が、時間相応に表現される。その同一性と差異の巧みな表現は、映画自体の評価基準ともなっている。しかし私たちは、俳優の身体に若さや老化などの細工が施され、その技巧が手本とされるような映画にあまりにも慣れすぎてしまってはいないだろうか。膨大な過去の情報に誰でも気楽にアクセスし遡行できる時代に、スクリーン上で仰々しく設定された時間の細工に、昔ほどの新鮮な驚きを感じていられるだろうか。
スクリーンは語る #01 ゴッドファーザー
イメージ 『ゴッドファーザー』の数代に及ぶ長大なサーガは、大戦の前後で二様に引き裂かれた「暴力と宗教」の関係を表現しているといえる。物語は主に二人の人物に交互に焦点を当てて描かれる。大戦前後のアメリカでマフィアとして活躍したヴィトー・コルレオーネと、その息子の四兄弟の一人であり、後に財団経営者として更にマフィア組織を拡大したマイケル・コルレオーネである。

もっと見る

ヒトは何をどう成し遂げてきたのか

未来百景 #10 ラ・ラ・ランド
イメージ 『ラ・ラ・ランド』はめくるめく「円」を描く。ジャズ・ピアニストのセブが回転させるレコード、女優志望のミアがルームメイト達とLAの路上で踊る輪舞、ミアとセブがプラネタリウムで星々と共に踊るワルツと、探せばキリがない。この「円」はふるくから時間の形象として、「時計」の形で存在してきたものだ。一日が終わり、また新たな一日(「アナザー・デイ・オブ・サン」)が始まるという、太陽の運行にも似た循環性を「円」は象徴する。
未来百景 #09 マイノリティ・リポート
イメージ 時計の針は進むことを止めない。現在から見て一瞬前は過去となり、一瞬後は未来になる。しかしすぐさま現在であった時間は過去となり、先ほどまで未来であったものが現在に変化する。それが永遠に繰り返され、時間の流れは仮借なく進んでいく。人間はその流れから逃れることができない。
未来百景 #08 ミッション:8ミニッツ
イメージ 「これは時間旅行ではない。時間の再分配だ。」
ある哲学者がいうには、わたしたちは実際には過去しか知覚していない。わたしたちが関わる対象すべてが、なんらかの記憶をまとってしまうからだ。だから現在もまた「過去」なのである。だとすると、幽閉された過去のなかで未来を抉(えぐ)り抜き、未来を知覚しようともがく男の姿が描かれる『ミッション:8ミニッツ』は、奇妙な映画なのかもしれない。
未来百景 #07 A.I.
イメージ 人間の生活を便利にする発明が生まれるとともに、それに対して警鐘を鳴らす声が同時に生まれることも、もはやお決まりとも言える。卑近な例で言えば、スマートフォンに対する依存性の懸念などが挙げられるだろう。しかしながら、いちど生まれた利便性は、手放すことは非常に難しい。結局のところ、普及とともに懸念の声も次第に下火になることが歴史の必然でもあろう。
未来百景 #06 インターステラー
イメージ 時間とは不可逆的で、かつ不変的なものだとわたしたちは信じている。時間は未来に向かってただ進んでいくものであり、60秒という時の長さはたとえ地球の裏側にあるブラジルにいたとしても同じだ。
未来百景 #05 君の名は。
イメージ 「昔々、あるところに銀河を旅する彗星がありました。彗星は地球の上空で離ればなれになると、片割れを地上に落として宇宙の彼方へと飛び去っていきました。その姿はまるで星回りの悪い恋人たちのようでした」 『君の名は。』で彗星はなぜ、1200年かけて再び糸守町へと還ってくるのか? 同作を貫く「組紐」のイメージから、そのストーリーに迫ります。
未来百景 #04 マトリックス
イメージ ――「現実としか思えない夢を見たことはあるか?」 わたしたちが生きている世界は、実はプログラムが生み出した仮想現実であり、それは人工知能(A.I. )が人間に幻視させた「夢」にすぎない。『マトリックス』での「現実」において人類とは、A.I. が監視するカプセルのなかでひたすら「夢」をみながらエネルギーを搾取されるために培養される存在だ。キアヌ・リーブス演じる主人公・ネオは日々生きる現実がプログラムによる虚構にすぎず、悪夢のような世界こそが真実と知ると、人類を救うべくA.I. との戦いへと身を投じていく。
未来百景 #03 天使のくれた時間
イメージ クリスマスの朝、気ままな独身生活を満喫する金融会社の社長ジャック・キャンベルが目を覚ますと、そこには、13年前に別れた恋人ケイトが眠っていた。寝室のドアが開き、プレゼントを手にした女の子が大はしゃぎでジャックに言う。「クリスマスおめでとう、パパ!」。もしもあの時、別の道を選んでいたら…。ニコラス・ケイジとティア・レオーニの演技が光る大人のファンタジー『天使のくれた時間』は、誰もが一度は考える「If」を表現した作品だ。
未来百景 #02 ブレードランナー
イメージ 2019年、地球の環境は荒廃をきわめていた。空一面のスモッグが太陽をさえぎり、暗く沈んだ街には四六時中、酸性雨が降り続いている。人類を除く生物のほとんどは死に絶え、人々は別の惑星への移住に新たな希望を見出そうとしていた。そんな中、アメリカのタイレル社が人間そっくりのロボット(レプリカント)を開発。地球外基地での奴隷労働や他の惑星の探索などに使っていた。これが1982年公開のSF映画『ブレードランナー』の未来像だ。
未来百景 #01 バック・トゥ・ザ・フューチャー
イメージ タイムトラベルをテーマにした作品は数多くあるが、昭和の終わりから平成の初めに青春時代を過ごした人であれば、真っ先に思い浮かぶのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー(以下BTF)』だろう。1985年の「現在」から、1955年、2015年、そして1885年へと、時代を行き来する冒険に誰もが心を躍らせた。2015年10月21日にはBTFの「未来」がやって来たと話題になったが、現実はやはり、この名作には追いつけなかったようだ。作中に出てくる「乾燥機能付きの服」は発売されていないし、「雨の上がる時刻を秒単位で予測する天気予報」もない。そして何より、自動車はいまだに地面を走っている。

もっと見る