スクリーンは語る

ゴッドファーザー

メインビジュアル

 『ゴッドファーザー』の数代に及ぶ長大なサーガは、大戦の前後で二様に引き裂かれた「暴力と宗教」の関係を表現しているといえる。物語は主に二人の人物に交互に焦点を当てて描かれる。大戦前後のアメリカでマフィアとして活躍したヴィトー・コルレオーネと、その息子の四兄弟の一人であり、後に財団経営者として更にマフィア組織を拡大したマイケル・コルレオーネである。

 大戦前の1901年、シチリアで父親と母親を失い、9歳で単身NYに渡ってきた若きヴィトー・コルレオーネは、しがない飲食店で身銭を稼ぎながらも結婚して子供を産み育てるが、ある時イタリア人街の元締めとしてみかじめ料をせしめている男、ドン・ファヌッチを計画的に殺害したことで、その後裏社会で躍進していく前身を作ることになる。やがて息子たちも成長した頃、対抗マフィアの凶弾を受けて引退、仕事は三男のマイケルに引き継ぎ、自宅のオレンジ畑で孫と遊びながら最期を迎えることになる。一方、マイケルは父の仇討ちのために二人の敵幹部を殺害した後から人が変わったように冷酷になり、一気にマフィア組織を拡大し、ついには合法企業一歩手前にまでなるが、最期には一人で看取るものなく孤独に死ぬ。

 この二人の生き様は、見た目には似通っているようでその結末は極めて対照的である。なぜヴィトーは幸福そうに見え、マイケルは不幸な末路を迎えたのだろうか。まず、富裕層の絨毯を盗んだり、父母を殺した敵であるドン・チッチオに復讐するなど、ヴィトーの殺害や犯罪の描写は全て義勇に裏付けられている。加えて、ヴィトーは好戦的な性格ではなかった。彼が劇中で誰かの命を奪うように命令を下した場面はない。やがて老年の境に対抗マフィアの凶弾を受けるが、それも麻薬の扱いに関わることを拒否するという筋の通った理由のためだった。そして彼は家族を極めて大切にした。彼の負傷後、その敵討ちのために双方に多数の死者を出してしまうが、彼だけは最後まで息子たちのことを心配し、被害者が多くならないことを気遣い、自分から停戦を申し出たうえで、息子のマイケルに家督を譲った。対して、その仕事を引き継いだ若いマイケルは敵勢力を躊躇いなく殺害し、また家族をそれほど大切には思わない合理的な性格でもってファミリーを拡大していく。彼はファミリー以外の人間の殺害に全く抵抗がなく、商売と報復だけがその動機である。そしてイタリア人は皆家族を大切にすることで有名だが、敵側についた妹の夫は殺害し、実の兄であるフレドに対しても勘当するという冷酷な態度を取った。

 この二人の運命を左右する最大の違いは世界そのものの変化であり、彼らと彼らの生きる時代が宗教的世界の加護を受けているかどうかにあった。『Part II』でのヴィトーによるイタリア人街の元締めのファヌッチの殺害は、サン・ジェナーロ祭の最中に彼にみかじめ料を渡した後、別れたフリをして屋根伝いに飛び交いながらファヌッチの帰り道を追い、その家の前で殺害するというものだった。その祭は身体中にお札をまとった聖人が担ぎ上げられるなど醜悪極まるものだったが、ファヌッチはその途中、このパレードに布施をして周りから賞賛を受けている。つまりここでのヴィトーの殺害は、宗教に布施をしながら、同輩から金を巻き上げることで私腹を肥やす悪漢への天罰の意味合いが込められている。彼はファヌッチを殺害することで宗教を汚濁から守ったのであり、だから彼は大きな災難に見舞われる事なく躍進し、幸福な死を迎えた。

 一方のマイケルだが、『Part III』の冒頭は廃墟になったネバダの豪邸と打ち捨てられたマリア像から始まるが、この描写は彼自身だけでなく、彼が生きる無神論的な世界を反映している。マイケルは大司教の6億もの損失を補填する見返りにバチカンの裏会社であるインモビリアーレ社の株を25%所有することで、マフィアを合法企業に変転させようとしている。そう、あのファヌッチと同じように、彼は信仰と金を繋いでしまった。後に糖尿病を患い、マイケルはローマ枢機卿に自らが犯してきた罪を懺悔するが、バチカン全体が金にまみれて汚れているのだから、今や祈る神がいないとはこのことである。だから彼はこの時代の必然として、理不尽な不幸に見舞われ続ける。大戦後の我々が生きる世界とは、金融が全てを支配し、互いの利益を奪い騙すことにもはや一抹の抵抗もない「神と宗教」の死後の世界であり、マイケルはそのような時代にはもはや父のように幸福な最期を迎えることができなかった。

 彼は大戦前後の時代の変化に引き裂かれてしまった不幸な犠牲者だと言えるが、それは父の時代では望まれていたダンディズムやアメリカン・ドリームを貫き維持しようとしたつけだと考えるべきなのかもしれない。ある時代では可能であり美徳であった生き方が、その直後の時代にはそれらが退歩的だとして裁かれるということは歴史の必然である。だからこそ、我々はその時代に望ましい生き方と、自らが望む生き方を常に天秤にかけていく必要があるだろう。

横山タスク
1992年生。早稲田大学文化構想学部既卒。ゲンロン 批評再生塾二期既卒。

【『ヱクリヲ』とは】
エクリヲ エクリヲ 批評家・佐々木敦の主宰する「映画美学校 批評家養成ギブス第三期」のメンバーを中心として、2014年11月に結成。映画・音楽・文学・美術といった領野を貫通する批評活動を展開している。現在は「ゲンロン 批評再生塾」や全国の若手研究者とも協働し、おもに20代の書き手を中心に雑誌やweb上で活動している。2017年11月28日には最新号『ヱクリヲ7』(「音楽批評のオルタナティヴ」「僕たちのジャンプ」特集)を上梓、全国書店やディスクユニオン等、約100店舗で発売中。

イメージ

『ゴッドファーザー PART I』
Blu-ray:2,381円+税 DVD:1,429円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

イメージ

『ゴッドファーザー PART II』
Blu-ray:2,381円+税 DVD:1,429円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

イメージ

『ゴッドファーザー PART III』
Blu-ray:2,381円+税 DVD:1,429円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

2018年4月の情報です。
商品詳細につきましては、下記公式サイトよりご確認いただけます。
URL:http://www.nbcuni.co.jp/

関連タグ

この記事をシェア

  • tweetする
  • シェア
INDEX