時間が息づく場

「凍れる音楽」とも称される建築は重層的な時間を内包している。街中の広場や路地にも歴史がある。そんな「とき」を感じさせる場を紹介する。

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鉄道博物館

今年は明治維新からちょうど150年。開国によってそれまでになかったファッションやテクノロジーが輸入されたことはご存じの通りだが、その中の一つに「鉄道」がある。埼玉県の「鉄道博物館」は迫力ある実物車両の展示を中心に、その鉄道の発達史を追えるミュージアム。2006年に閉館した交通博物館(東京都千代田区)に代わって2007年に開館した。京都鉄道博物館、名古屋のリニア・鉄道館とあわせて日本三大鉄道博物館の一つに数えられる。

ここには旧国鉄及びJRの資料を中心に多くの資料が展示されている。1階の「車両ステーション」には北海道初の鉄道を走った蒸気機関車「弁慶」や天皇・皇后らが乗った御料車、人力で動かした松山人車軌道の人車、国産初の本線用電気機関車ED40など30両以上の実物車両が並ぶ。中心に蒸気機関車C57が乗った転車台があり、毎日2回、回転する。2階には長い鉄道車両年表とともに模型が展示されていて、1階にない車両の姿もしのぶことができる。

2018年7月に新しくオープンした南館ではさまざまな角度からより深く鉄道について学べる。運転シミュレータなど鉄道の仕事を体験できるエリアや、日本の鉄道発達史を概説する「歴史ステーション」がある。広い敷地内にはその他に本物の鉄道路線が見下ろせるカフェや日本最大級の鉄道ジオラマ、実際に乗って動かせるミニ運転列車などもあり、一日いても飽きない。
歴史ステーション ここでたとえば、前述の通り明治維新150年なので日本の鉄道第一号について追ってみよう。まずは「車両ステーション」に展示されている「一号機関車」の実物だ。これは1872年に新橋〜横浜間で開業した日本初の鉄道のためにイギリスから輸入された10両の蒸気機関車のうちの一両。10両の蒸気機関車には1から10までの番号が割り当てられ、5社の車両メーカーに発注されていた。

鉄道博物館の「1号機関車」はバルカン・ファウンドリー製。途中駅での停車時間を含む平均速度は時速30キロだった。所要時間は新橋〜横浜間が53分、料金は上等が1円12銭5厘、中等75銭、下等37銭5厘だった。当時米10キロが36銭だったので、現在の価格に換算すると4000〜5000円前後。JR在来線の新橋〜横浜間運賃は現在460円ほどなので、ずいぶんと高い乗りものだったことになる。

この1号機関車は新橋〜横浜間で使われ、各地を転々とした後、島原鉄道に払い下げられて第二の人生を歩んだ。車両の脇につけられた「VULCAN FOUNDRY」や1930年に島原鉄道から戻ってきたときの「惜別感無量」といったプレートに、この蒸気機関車に込められた人々の思いが感じられる。

本館2階の年表には日本初の鉄道の開通に先立って、ペリー提督が持参した蒸気機関車の模型がある。1854年、二度目の来航を果たしたペリーは将軍への献上品として実物の4分の1の蒸気機関車の模型を持参していた。蒸気車の長さ2.4メートル、車幅は1.5メートルもあり、燃料も本物と同じ木炭だ。この模型は横浜の応接所で運転された。この模型が走り回る様子を見た人々は目を輝かせたことだろう。将軍に贈られたペリーの模型は残念ながら焼失してしまったが、さらにそれを縮小した模型が本館2階に飾られている。

南館3階の「歴史ステーション」はそれまで館内に分散していた歴史関係の展示を一堂に集めたもの。時系列に沿って資料が展示され、見やすくなった。ここにはジョン万次郎がアメリカで見たという「レイロウ」(レイルロード)の絵がパネル展示されている。彼は1841年に漂流し、アメリカ船に助けられて10年後に帰国した。開国前の日本に外国の鉄道の情報をもたらした、数少ない人物の一人だ。

「歴史ステーション」に展示されているもう一人のキーパーソンがエドモンド・モレルだ。列強に追いつき追い越せ、とやっきになっていた明治政府が招聘(へい)した大勢のお雇い外国人の一人だ。イギリス出身の彼は出し惜しみすることなくさまざまな知識を伝えるだけでなく、コストカットのためにアドバイスもしてくれた。たとえば枕木には最初、鉄を使う予定だったが、鉄は高価だ。そのかわりに木材は豊富にあるからそれを使おう、という具合だ。彼は日本の鉄道の大恩人と言っても過言ではない。が、病弱だったモレルは開業を目前に31歳の若さで病に倒れてしまう。今は横浜の外国人墓地に埋葬され、その墓は鉄道記念物に指定されている。

鉄道博物館には鉄道に詳しいボランティアスタッフがいて、頼むと館内を案内してくれる。黄色いブルゾンが目印だ。好きなところを回るのも楽しいが、このスタッフにお願いして見どころを教えてもらうと鉄道についてより深い知識が得られる。館内では子供が大はしゃぎしているけれど、じっくり展示を見ている大人の姿も多い。

博物館の外に目を移すと2012年には東京メトロ銀座線で、1927年に開通した当時の車両をイメージしたレトロな味わいの車両がデビューした。2015年から運転開始されたJR山手線の新車両は、フェラーリをデザインしたことで知られる奧山清行が監修している。ドットによるグラフィックが印象的な車両だ。2019年2月には東京メトロ丸ノ内線で丸窓がアクセントになった新車両が投入される予定だ。日本の鉄道の歴史も150年近い。進化する鉄道の未来を感じつつ、鉄道博物館でさまざまな角度から近代史を見ることができる。

参考文献

明治150年記念 NIPPON 鉄道の夜明け(鉄道博物館)
鉄道開業ものがたり(鉄道博物館)
日本鉄道事始め(髙橋団吉著 NHK出版)

〈施設データ〉

埼玉県さいたま市大宮区大成町3−47
tel. 048-651-0088
入場料:一般1300円ほか
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週火曜日、年末年始
http://www.railway-museum.jp

青野尚子(あおの・なおこ)

青野尚子(あおの・なおこ)
建築・アートを中心に執筆。ときどき土木も。共著に「新・美術空間散歩」(日東書院本社)、「建築がすごい世界の美術館」(パイ・インターナショナル)。

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