人間と時間

#08

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LIFE SHIFT

「いま50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつもりでいた方がいい」。そう言われて、あなたはどう思うだろう。喜ばしさの一方、そこはかとない不安を覚えるのが正直なところではないだろうか。『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著 池村千秋訳 東洋経済新報社)は、そんな私たちに、100年ライフを生きる勇気とビジョンを与えてくれる。

私たちの人生はこれまで、「教育→仕事→引退」という3つのステージによって構成されていた。しかし、100歳まで生きることが当たり前になると、ここに新たなステージが現れるという。選択肢を狭めずに幅広い進路を検討する「エクスプローラー(探検者)」、自由と柔軟性を重んじて小さなビジネスを起こす「インディペンデントプロデューサー(独立生産者)」、さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる「ポートフォリオワーカー」。これらの詳細は本書をお読みいただくとして、ここではその前提となる時間の使い方、特に余暇の過ごし方の部分を少しご紹介しよう。

日本では長時間労働が未だに大きな問題となっているが、世界全体で見ると、人々の労働時間は減り、余暇の時間が増えつつある。そして、その傾向は今後さらに強まるという。私たちはこの時間を、どのように過ごすべきなのだろうか。

労働運動が始まったばかりの頃、人々は長く苛酷な仕事の疲れを癒すために余暇時間が必要だと主張した。余暇時間が増えるにつれて、コンサートホールや映画館、プロスポーツといったレジャー産業が成長し、人々は自由になる時間の多くをレジャーに費やすようになる。テレビを見たり、買い物に行ったり、レストランで食事をしたり、いまではそこにYouTubeやSNSが加わることはいうまでもない。これらは「時間を消費する活動」であると著者はいう。

しかし、生涯にいくつものステージを選択する100年ライフでは、余暇に対する考え方そのものを変える必要がある。

100年ライフでは、家族と友人、スキルと知識、健康と活力などの無形の資産を充実させることの重要性が高まり、そのための投資が必要になる。(P310)

そこで投資されるものこそが、余暇時間に他ならない。100年ライフの余暇では

レクリエーション(娯楽)ではなく、自己のリ・クリエーション(再創造)に時間を費やすようになるのだ。(P312)

「吾十有五にして学に志す」からはじまる孔子の言葉は、「七十にして心の欲する所に従えども、矩(のり)を踰(こ)えず」で締めくくられる。その先の八十、九十、百をどう生きればいいのか。そのヒントは、どうやら、絶え間ない自己の「再創造」にあるようだ。

人生が長くなるほど、アイデンティティは人生の出発点で与えられたものではなく、主体的に築きうるものになっていく。(P38)

十五にして学に志さず、三十にして立てなかった身としては、なんとも希望の持てる話である。

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