人間と時間

#02

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自分の時間 ―1日24時間でどう生きるか―

こんなたとえ話がある。

ある朝ひとりの男があなたの前に現れ、お金の詰まったスーツケースを渡してこう告げる。「このお金をあなたに差し上げます。ただし、今日一日で使い切れなかった分はすべて没収します」。そう言われたら、誰もが必死になってこのお金を使い切ろうとするだろう。ではなぜ、私たちは、同じように消えてしまう「時間」を使い切ることなく、今日という日を終えてしまうのだろうか。

発行から100年の長きにわたって世界中で愛読されてきたアーノルド・ベネット著『自分の時間』は、そんな時間の貴重さに改めて気づかせてくれる一冊だ。第一章はこんなフレーズからはじまる。

時間があれば金は稼げるが、金があっても時間は買えない<P26>

「時は金なり」という言葉は誰でも知っているが、これは真実の半分しか表現していない。残りの半分、「金は時ならず」こそ、「自分の時間」を考えていく上で私たちが肝に銘じておくべきことなのである。

金で買うことのできない時間。だからこそ私たちはその使い方に細心の注意を払い、正しく用いることで、「不滅の魂を向上させていかなければならない」のだ。そのひとつの方法として、本書では週6日毎朝30分の通勤時間と、週3日90分の夜の時間を合わせた7時間半を、「精神を豊かにする」ことに使うよう提案している。一週間のうちの7時間半で何ができるのかという気もするが、

言いたいことは、「この7時間半をフルに活用すれば、その週全体が活気と情熱にあふれたものとなり、退屈きわまりない職業にさえ関心が増すようになる」ということだ。<P79>

ここまで自信満々に断言されると、いったん信じてみるかという気にもなってくる。では、その7時間半で具体的に何をするのかというと、朝の30分は「ひとつのことに思考を集中するトレーニング」、夜の90分は音楽や芸術を鑑賞したり、自分自身の好奇心を満たすことに使えというのだが、著者は特に「詩を読むこと」を勧めている。これをどう感じるかは人それぞれだと思うが、次のような考えには誰もが共感を覚えるのではないだろうか。

小説は「思考を要する読書」には入らない。
(…)
よい小説というのは、小舟に乗って急流を下るがごとく、最後まで息もつかせずどんどん読み進められるものだ。(…)最高の小説とは、少しの努力感もなしに読めるもののことだ。
(…)
精神を陶冶(とうや)する際の最も重要な要素のひとつは、まさにこの努力感なのである。一方ではやり遂げたいと思い、他方ではやりたくないと思う、心の中の葛藤が大事なのである。<P128- P129>

そして、

終着点のことは忘れるのだ。現在自分のいる周囲の景色のことだけに注意を払えばよい。
そうすれば、おそらく予想もしないような時に突然、あなたは丘の上の美しい町に到着しているだろう。<P135- P136>

私たちは、毎日、誰もが平等に24時間という時間を与えられる。それで金を稼ごうが、精神を陶冶しようが、スマホのゲームに没頭しようが個人の自由だ。どう使おうと、次の日にはまた「まっさらな24時間」が支給されることだろう。ただ、ひとつ言えるのは、「自分のお金」は子孫や世の中に残すこともできるが、「自分の時間」は自分が死ぬと消えてしまう。それを使い切ることができるのは、世界広しと言えど、あなた一人しかいないということだ。

自分の時間
アーノルド ベネット

ロープライス ¥279
or 新品 ¥1,296

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