私の時間デザイン

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アサヒグループホールディングス会長 泉谷直木氏時間は有限、かつ常に動いているもの。「時間デザイン」とは、時間を迎え撃ち、自らクリエイトすること。

変化の激しいビジネス環境の中で、経営トップとしてアサヒグループの事業を牽引する泉谷直木さん。多忙極まりない日々を送るなか、時間というものをどのようにとらえ、対応されているのか。ビジネスパーソンのトップだからこそ語れる「時間デザイン」の極意を伺った。

泉谷直木(いずみや・なおき)

1948年生まれ。京都府出身。72年京都産業大学法学部法律学科卒業後、アサヒビール入社。工場倉庫課、労組役員などを経て、95年に広報部長。経営企画部長、経営戦略部長などを経て、2003年取締役に就任。04年常務取締役、09年専務取締役を歴任し、10年代表取締役社長兼CEOに就任。11年に持ち株会社制への移行に伴い、アサヒグループホールディングス社長に就く。14年から社長兼CEOに。

手帳は人生の相棒。
私のナレッジが
蓄積されたツール

時間をデザインするときに、活用されているツールはありますか?

 今はスマホなど、多様な情報端末がある時代ですが、私は長年、手帳を相棒に過ごしてきました。手帳を家に忘れてきてしまうと、その日は不安で一日中仕事になりません。また、手帳に書き込むシャープペンシルも決まっており、これも忘れると調子が出ない。自分の思考を整理し、時を迎え撃つ準備をするためには、いつもの手帳とシャープペンシルが必要なのです。

 手帳の使い方は3つ。左側のスケジュール欄には予定や結果を書き込み、右ページには、その時々で記録すべきこと、記憶すべきことを記入します。たとえばある会社の人と、あるテーマでお会いする予定があれば、そのテーマに関するビジネス知識や理論を書き込んでおくのです。そうすることで、お会いする時間を濃くすることができ、所期の目的を高いレベルで達成することができます。3つめの使い方は、右ページに記入したもののうち、後になっても使えそうな素材があれば、後ろのメモ欄に書き写す。最近は、すぐにメモ欄がいっぱいになるので、手帳に挟み込まれている住所録に書き写すことにしています。そして毎年新しい手帳にそれを移動させます。それが今では、私のナレッジが蓄積されたツールになっています。人と話をする時に活用できる、とっておきの“定番のネタ帳”でもあります。

ポジティブアプローチで未来を考える

未来の話も手帳に書かれるのですか。

 私は、将来のことは4つの「D」で考えるようにしています。1つはDiscovery。自分は将来何をしたいのか、将来の自分に活力を与えてくれるものは何なのか。そういったことをまず発見する。次のDreamは、想像できる最高の姿を考えてみる、夢を描いてみる。そして自分の人生をどのようにデザイン(Design)していくか。これらがある程度固まってきてコンセプトが決まると、最後はDesire――
つまりそれを実現へ導く欲求をどうやって現実のものにしていくのか、ということになります。

 よく、ギャップアプローチとポジティブアプローチという言い方をします。前者は現状を分析して、問題を明確化し、可能な解決方法を探しだしてアクションプランをつくるというものです。これは、組織や人は常に解決すべき課題を抱えているという前提から出発しています。ところが、後者のほうは、自分の強みや価値は何か、自分は将来に何を思い描いて組織としてどうなりたいのか、そのためにすべきことは何かといったことを考えます。これは、組織と人は無限の可能性を持っているというのが前提です。

 4つの「D」を回していくということは、ポジティブコア、つまり常に前向きな中核的意識ができていくという、まさにポジティブアプローチなのです。

手帳に書き込むという行為にも意味がありそうですね。

 私が手帳にこだわるのは、「書く」という行為に意味を見出しているからです。書くことは考えること。自分自身の思考を掘り下げることを意味します。また文字だけでなく、自由に絵や図表を書けることも「手書き」することの魅力の一つ。シャープペンシルを使い、経営上の理論や哲学的な概念を絵解きをするように手帳に書き込むことで、思考の枠組みがどんどん明確になっていくのです。