私の時間デザイン

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アサヒグループホールディングス会長 泉谷直木氏時間は有限、かつ常に動いているもの。「時間デザイン」とは、時間を迎え撃ち、自らクリエイトすること。

変化の激しいビジネス環境の中で、経営トップとしてアサヒグループの事業を牽引する泉谷直木さん。多忙極まりない日々を送るなか、時間というものをどのようにとらえ、対応されているのか。ビジネスパーソンのトップだからこそ語れる「時間デザイン」の極意を伺った。

泉谷直木(いずみや・なおき)

1948年生まれ。京都府出身。72年京都産業大学法学部法律学科卒業後、アサヒビール入社。工場倉庫課、労組役員などを経て、95年に広報部長。経営企画部長、経営戦略部長などを経て、2003年取締役に就任。04年常務取締役、09年専務取締役を歴任し、10年代表取締役社長兼CEOに就任。11年に持ち株会社制への移行に伴い、アサヒグループホールディングス社長に就く。14年から社長兼CEO、16年から会長兼CEOに。

時間は有限である。
だからこそ、価値を生み出すものでもある。

「時間デザイン」の「時間」という概念について、どのような認識をお持ちでしょうか。

 ゲーテは「反省と格言」のなかで、「人間は現在がすこぶる価値があるというこ とを知らない。ただなんとなく未来のよりよい日を願望して、いたずらに過去と連れ立って嬌態を演じている」と言っています。またツルゲーネフも、「散文詩」のなかで「明日は明日はと、人は自分を慰める。その明日が彼を墓場に送り込むその日まで」と語っています。時間は、人々に平等に与えられたものですが、有効に使う人とそうでない人がいる。「時間デザイン」を考えるなら、まず時間とは何かを考えるべきでしょう。

 時間は「有限」であり、「常に動いている」ものです。お金のように貯金することも、後で返してもらうこともできません。また、古来から「時は金なり」と言われますが、時間は、その瞬間瞬間にお金、価値をつくり出す源でもあるのです。

 私はよく、社員や役員に「自分の日給、時給を知っていますか」と尋ねます。パートタイマーで働く人であれば、すぐに答えられる質問ですが、残念ながら私の問いに答えられる人はほとんどいません。パートタイマーで働く人の何倍もの収入を得ている人が自分の時間給さえわからずに働いていること。これ自体が、時間の価値を理解できていない人が多いことを示すものではないでしょうか。

時間は有限であることを理解していない人がいる一方で、理解していても有効に使いこなせない人もいますね。

 時間は無限だと思っている人は、足し算で予定を組み立てる人。あれもこれもと願望を語るものの、実際にはその倍以上のスピードで時間が進み、結局は何もできないまま終わってしまいます。時間が有限であることを理解している人も、多くが引き算で考えてしまう。時間が有限だからと、やるべきことを絞り込んでしまい、結果として、やろうとしたことの半分もできない、という現実に直面します。

 私は、時間というものが有限だからこそ掛け算を心がけるべきだと思っています。有限である時間を、人の20倍、30倍、50倍も濃くすることで生産性を上げていくことが大切なのです。

 たとえば私は今、国内外を合わせると年間100日近くの出張をこなしています。また、商談や打ち合わせ等が刻々と入り、空き時間はほとんどありません。よく、課長や部長になりたての人が「忙しくて時間が足りない」とこぼすことがありますが、役職が上がれば責任が重くなり、やるべきことが増えるのは当たり前のこと。仕事が増えて時間が足りないのは、能力が足りない証拠です。時間が足りないと不満を口にするよりも、時間を濃くすることで自分の時間をつくり出すことが大切でしょう。

時間を濃くするために、時間を迎え撃つ

時間をつくり出すために必要なことは何でしょう。

 時間を「迎え撃つ」ことです。誰といつ、何のために会うのか。事前に目的を理解した上で可能な限りの準備をする。事前の段取りがしっかりしていれば、その時間を濃くすることが可能です。予定した時間よりも短い時間で目的を達成することができれば、新たに自分の時間をつくり出すこともできるでしょう。

 時間を濃くすることを意識すれば、他者の時間を浪費させることもなくなります。経営者は、相手の時間をコントロールしやすい立場にありますが、だからといって自分の都合に合わせて相手の時間を使ってしまうと、社員の生産性は低下し、会社の生産性も下がってしまいます。

 私は、役員室のドアを開けっ放しにしています。社員は勝手に部屋に入り、いろんなことを言っては帰っていくわけですが、私は決して「後にしてくれ」とは言いません。後回しにしてしまうと、社員は席に戻ってもいつ呼ばれるか気になって仕事に手がつきません。社員の時間を奪ってしまうような経営者は、経営者として失格だと思います。

 それから、準備・段取りという点で、経営者は、10年先の経営戦略を考えています。実務ならば2~3年先のこと、あるいは1年や1カ月先のことを考えている。こんなスパンの違いで段取りをする時間も違ってくるのです。

 10年先のことを考えるのはだいたい毎年の年末年始です。3年先のことを考えるのは、ゴールデンウイークとかお盆の休みのとき。そして1年や1カ月先のことを考えるのは、週末の土日です。こうした先のことを踏まえた準備や段取りをきちんとやっておくことで平日の時間がより濃くなるし、生産性が上がる――まさにそれが時間デザインなのです。