生命の目盛り

#06

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モノ選びで外さないコツ:自分を知ること

 生きているとモノが増えていく。だから最近は、断捨離なるものが流行っているらしい。時々はいらないモノを捨てて、身軽になっていく。しかしやはり、モノは増えていく。

時計を生業にしていると、しばしば購入相談を受ける。こういう時計が買いたいのですが、お得でしょうか。答えるのは簡単だが、最近はあまりやらないようにしている。相手の人となりが分からなければ、アドバイスは的外れになるからだ。どんなに気に入った時計でも、使わなければ、やがて断捨離の対象となる。

モノを選ぶとき、だいたい人は加点法で選択する。時計の場合ならば、デザインが好みだったり、機械の性能がよかったり、あるいはコストパフォーマンスが高かったりだ。しかし多くの人は、そこに自分を含めることを忘れてしまう。モノについては考えても、モノを使っている自分はどうなのか、に思いが至らないのである。そうやって選んだ時計は、たいていタンスの肥やしになる。

買う前までは加点法、買った後は減点法だと思っている。気に入った時計でも、例えばデスクワークの邪魔になるとか、シャツの袖に引っかかるとか、太陽の光が強いと時間が見えなかったりすると、段々使わなくなる。純粋な趣味モノなら使い勝手は問題にならない。しかし例えば時計のような実用品を兼ねるモノだと、使って気に障らないかはとても大事なのだ。そして、使って気になるかならないかは、その人のライフスタイルによって大きく変わる。例えばごつくて重いクロノグラフ。アウトドアが好きな人には向くだろうが、デスクワーク向きとは思えない。実際筆者は、そうやって時計を選び、何度も失敗をした。今は多少失敗せずに済むのは、時計を見立てられるようになったからではなく、それを使っている自分はどうなのか、に想像力を働かせられるようになったからだ。自分とは何者かを知る。大げさな物言いになってしまうが、それがモノ選びで失敗しない、唯一のコツであるように思う。

書店に行くと、断捨離について書いたの本がいくつも並んでいる。捨てて身軽になるのは簡単だが、また回りにモノが増え、再び断捨離をする羽目になる。であれば、必要なモノだけ選ぶ人生を選んだ方が、ずっといいのではないか。やはりこれについても、様々な指南書がある。しかし、読んでためになるとは到底思えない。必要なモノだけを選ぶのに必要なのは、自分とは何か、を考えること。自分はどういう余暇を過ごし、どういう場所で働き、どんな人と食事をするのか。自分に向かい合っていくうちに、加点法でも、減点法でも残るモノ選びが自ずと出来るのではないか。

スケジュール管理の上手い人は余計な物を買わない、というのは納得できる。自分のことを分かっている人は、例外なく、自分の管理が上手いのであって、そういう人は、時間もモノも、決して無駄にはしないのである。

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広田雅将(ひろた・まさゆき)
時計専門誌『クロノス日本版』編集長。1974年大阪府生まれ。サラリーマンを経て2004年からフリーのジャーナリストとして活動。2016年から現職。朝日新聞&、GQ JAPANなどに連載多数。

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