未来百景

ラ・ラ・ランド

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『ラ・ラ・ランド』はめくるめく「円」を描く。ジャズ・ピアニストのセブが回転させるレコード、女優志望のミアがルームメイト達とLAの路上で踊る輪舞、ミアとセブがプラネタリウムで星々と共に踊るワルツと、探せばキリがない。この「円」はふるくから時間の形象として、「時計」の形で存在してきたものだ。一日が終わり、また新たな一日(「アナザー・デイ・オブ・サン」)が始まるという、太陽の運行にも似た循環性を「円」は象徴する。

そのためか、『ラ・ラ・ランド』は物語自体が「円」のような循環構造をもつ。アヴァンの印象的なハイウェイの渋滞が、ラスト直前で反復されるのがその契機となっている。そしていわゆる「エピローグ」の段に至って、時計の針を巻き戻すようにして、セブが夢みた「もう一つの人生」が7分間に凝縮され、圧巻のメドレーとなって上演される――「もし僕が、ミアと別れず、結ばれていたならば?」

セブの「もう一つの人生」の上映が終わった後、ミアは「もう出ましょう」と、現夫と席を立つ。出口間際で、何か抗しきれない力に促されるようにして、ミアがセブを振り返る。永遠にも思える見つめ合いの果てに、ミアは微笑み、セブに背を向け、去っていく。深く印象に残る名シーンと思うが、驚くべきことに監督のデイミアン・チャゼルによれば、ここで「ミアが振り返らずに去っていく」という選択肢もあったようだ。しかしチャゼルは、敢えてミアを振り返らせることを選んだ。まるで人間は、過去を振り返らずには生きていけない存在であるかのように。

過去を振り返ることは、あまり良いこととされない。後ろ向きであることは常に落伍者の刻印として存在してきた。しかし、『ラ・ラ・ランド』は「後ろ向きに前へ進む」ことの大切さを、そっと教えてくれる。ミアとセブは別れた。その過去は変わらないだろう。しかし変わらないだけに、そこが拠り所となって、「あのときああしていればこうなったかも」と追憶し、「可能性」をこねくり回すことができる。パラレル・ワールドを想像することは、ときに救済となりうる。

ところで、この二元論的なパラレル・ワールドを描く「エピローグ」には実は元ネタがあって、それは『第七天国』(1927年)という古いサイレント映画だ。戦死した夫チコを想い、嘆き悲しむ妻のもとに、なぜかチコが生きて帰ってきて、体よくハッピーエンドというラスト。「本当に強い感情は現実になる」と断言する若きチャゼルは、「チコが死んだのも、生きて帰ってきたのも、ともに現実だ」という。となると、このラストを参照した『ラ・ラ・ランド』では、矛盾するようだが、セブは「二つの現実」を生きているということになる。

冒頭、『ラ・ラ・ランド』はめくるめく「円」を描くと言ったが、その軌道は実のところ「楕円」である。ここで「円」が一つの中心しか持ちえないことから、中世まで「神」と同一視された完全図形だったことを思い出そう。しかし『ラ・ラ・ランド』は、ミアと結ばれる人生/結ばれない人生という「二つの現実」を生きる、現代の「人間」の心理的歪みが刻印された物語である。「エピローグ」でつらい過去を振り返る彼の心は、二つに引き裂かれ、その引き裂かれた魂を調停するための新たな図形(ダイアグラム)が必要となる――それが「楕円」だ。

二つの焦点をもつ楕円は、二重性やパラドクスの肯定を意味する救済の紋章となると、かつて花田清輝は「楕円幻想」という文章の中で語った。だからその意味で、「二つの現実」を肯定した楕円を身振りする『ラ・ラ・ランド』とは、「後ろ向きに前へ進む」という逆説もまた赦す救済の映画となりえたのではないか。

後藤護(ごとう・まもる)
1988年生まれ。映画・音楽ライター、翻訳家。現在J・G・フレイザー『金枝篇』(国書刊行会)の訳文校正を担当中。主な論考に「楕円幻想としての『ラ・ラ・ランド』」、「『ラ・ラ・ランド』と青の神話学――あるいは夢みる道化のような芸術家の肖像」(ともに『ヱクリヲWEB』掲載)がある。80年代を「いま」とつなげる音楽サイト『Re:minder』にコラム連載中。

【『ヱクリヲ』とは】
エクリヲ エクリヲ 批評家・佐々木敦の主宰する「映画美学校 批評家養成ギブス第三期」のメンバーを中心として、2014年11月に結成。映画・音楽・文学・美術といった領野を貫通する批評活動を展開している。現在は「ゲンロン 批評再生塾」や全国の若手研究者とも協働し、おもに20代の書き手を中心に雑誌やweb上で活動している。2017年11月28日には最新号『ヱクリヲ7』(「音楽批評のオルタナティヴ」「僕たちのジャンプ」特集)を上梓、全国書店やディスクユニオン等、約100店舗で発売中。

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ラ・ラ・ランド
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発売元:ギャガ
販売元:ポニーキャニオン
DVD¥3,800(本体)+税、Blu-ray¥4,700(本体)+税
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Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

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