未来百景

マイノリティ・リポート

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時計の針は進むことを止めない。現在から見て一瞬前は過去となり、一瞬後は未来になる。しかしすぐさま現在であった時間は過去となり、先ほどまで未来であったものが現在に変化する。それが永遠に繰り返され、時間の流れは仮借なく進んでいく。人間はその流れから逃れることができない。

その流れに逆らい、もし人間が未来を支配できたらどうだろうか。まだ起こっていない殺人事件を事前に予知し、その容疑者を逮捕できる管理社会。2002年に公開されたスピルバーグ監督によるこのSF大作は、そのような形で未来を支配できる社会を描いている。

システムは「プリコグ」と呼ばれる3人の予知能力者によって容疑者を特定する。最愛の息子を殺された過去の経験から犯罪を憎んでいるジョンは、容疑者たちを逮捕する犯罪予防局で働いている。しかし、ある時ジョンは自らが殺人容疑者としてプリコグに予知されてしまう。自分が犯罪を犯すなど絶対にないと信じているジョンは、自身の潔白を証明するために「マイノリティ・リポート」を探すことになる。

「マイノリティ・リポート」とはプリコグの一人、アガサの脳内に隠されたイメージで予知結果が3人の「プリコグ」の間で一致しない時、本来なら破棄されてしまう予知結果である。もしこの事件の「マイノリティ・リポート」が存在すればそこに「ジョンが殺人をしない未来」が予知されている可能性がある。そしてジョンはアガサの脳内イメージをダウンロードしようと彼女を拉致することになる。

しかし結果として「マイノリティ・リポート」なるものは存在しなかった。予知は絶対のものだったのだ。時間は刻々と過ぎ、未来が現在になってしまうまでアガサは、ジョンが事件の舞台となる場所へ行かないよう説得する。

“You have a choice”(自分で選ぶことができる)とアガサは言う。未来は無数の可能性を選択肢として提示しながら現在の前に立ちはだかる。人間はその可能性の中から一つを選びとって自らの未来としなければならない。その選択という行為こそ人間は常に求められている。現在とはその選択の瞬間に他ならない。

しかし予知された未来がその選択という行為を掠め取り人間を囚える。つまり未来を先取りすることは人間にとって選択する瞬間という現在の、根本的な意味を無化させる。ジョンには多くの選択肢があった。しかし未来の予告がそれ以外の選択肢をジョンから奪った。その結果必然的に悲劇的な未来が現在へと招来されたのだ。

彼は無化されていない現在を取り戻さなければならない。それはいかにして可能になるのか。結論から言おう。それは過去という時間を経由して達成されるのだ。過去というものは記憶として人間の中に確実に存在する。それは人の心の拠り所ともなる一方で、トラウマとして残酷にも蓄積されている。ジョンが過去の息子や別居中である妻との映像を観る時、麻薬を使っていることに注意しよう。彼は過去を正視できないのである。

一方、アガサはジョンに過去のある殺人事件のイメージを執拗に見せる。”Can you see?”(あれが見える?)とその時アガサは彼に問いかける。そこから、未来を見続けた彼女のジョンへのメッセージが伝わらないだろうか。つまり彼女は未来の虜となっている彼に自身の過去を見せることで、過去という時間を直視するよう促しているのだ。過去なしで未来を考えることは不可能である。なぜなら未来を選択するための時間である現在とは、過去の上に成り立つものなのだから。

現在という時間は、その過去と未来の狭間にある限りない無に等しく、時計の針すら捕捉できない一瞬でもある。それは過ぎ去った膨大な時間である過去と可能性に満ち満ちた未来の狭間にある「マイノリティ」=少数の瞬間である。その瞬間に選択をすること。その選択の報告=リポートこそ「マイノリティ・リポート」なのだろう。つまりこの映画は「選択の物語」であるのだ。

白石・しゅーげ
1991年生まれ。明治大学文学部ドイツ文学専攻をトーマス・マンとアドルノに関する論文で卒業。学習塾勤務。80年代音楽エンタメサイト”Re:minder”にてコラムを連載中。福永武彦研究ZINE『Nocturne』1号・2号の編集長を務める。モリッシーをこよなく愛する、映画・音楽・文学好き。

【『ヱクリヲ』とは】
エクリヲ エクリヲ 批評家・佐々木敦の主宰する「映画美学校 批評家養成ギブス第三期」のメンバーを中心として、2014年11月に結成。映画・音楽・文学・美術といった領野を貫通する批評活動を展開している。現在は「ゲンロン 批評再生塾」や全国の若手研究者とも協働し、おもに20代の書き手を中心に雑誌やweb上で活動している。2017年11月28日には最新号『ヱクリヲ7』(「音楽批評のオルタナティヴ」「僕たちのジャンプ」特集)を上梓、全国書店やディスクユニオン等、約100店舗で発売中。

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『マイノリティ・リポート』
ブルーレイ発売中
¥1,905+税
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