ヒトは何をどう成し遂げてきたのか

#02

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城はいかに「進化」してきたか

壮大な石垣に鎮座する天守閣。「城」と聞いて思い浮かべるのは、きっと、そんな光景だろう。しかしそれは、城という言葉が指し示すものの一部に過ぎない。城には時代や地域によって異なる役割があり、それに伴うカタチがあった。ここでは、そんな状況の変化に着目し、日本の城がたどってきた「進化」の過程に迫ってみたい。

城の誕生

日本の城の起源は弥生時代にまでさかのぼる。農耕の開始にともなって「富」の集積がおこり、それをめぐる紛争が各地で勃発した。人々は自衛のため、自分たちの住む集落のまわりに「濠(ごう)」と呼ばれる溝を掘り、その外に土塁を築いて「環濠集落」を形成した。これが日本の城の起源だと言われている。溝と土塁に囲まれた集落のどこが城なのか、と思われるかもしれない。ためしに「城」を辞典で引いてみると、「(ア)都市のまわりに防衛のために高大に築いた壁(全訳 漢辞海【第三版】三省堂)」とあり、そこから「(イ)都市。町(同書)」という意味もあるようだ。「国破れて山河あり」からはじまる杜甫の『春望』は「城春にして草木深し」と続くが、この「城」はまさに町を意味している。

「環濠集落」からはじまった日本の城の歴史は、その後、中国や朝鮮の来襲に備えて博多湾奥に築かれた大土塁「筑紫(つくし)の水城(みずき)」や、蝦夷(えみし)支配の拠点として東北地方に造営された「城柵」へと続いていく。城の歴史は、それ単体ではなく、常に時代や地域の状況と合わせて見ていく必要があるのだ。

土から成る

城という字をよく見てみると、「土」から「成る」となっている。このことが示す通り、全国に4万~5万あるといわれる城の大半は土でできており、石垣に天守がそびえるようなものは一割にも満たない。戦国時代にはこのような「土の城」が各地につくられた。これらの城は、武力によって領地を奪い合う「陣取り合戦」において、敵の侵攻を食い止める「カベ」の役割を果たした。そのため、この頃の城兵は戦争の時だけ城に「出勤」し、平時は別の場所で暮らしていたようだ。

土の城の多くは山につくられた。城兵の身になって考えると、地形を利用できる分、平野より山の方が守りやすいのは疑いない。敵を防ぐことが目的の城にとって、最も重要な施設は「堀」だ。どれだけ頑丈な建物があっても、入城がフリーパスでは意味がない。その城の守りやすさ(=攻めにくさ)は堀をどう掘るかによって決まるのだ。堀の幅はだいたい五間(約10m)前後のものが多い。これは当時の弓矢の射程と関係していたようだ。しかし、やがて、この堀の幅を大きく変化させる出来事が起こる。

山を下りた城

1543年にポルトガルから伝わった鉄砲は、戦国最強といわれた武田の騎馬隊を織田信長が打ち破った「長篠の戦い」を契機に日本中へと広まった。この「新兵器」の登場は、軍事施設である城のあり方にも大きな影響を及ぼす。その最たるものが、前述した堀の幅である。弓矢の倍以上の射程を持つ鉄砲の進撃を防ぐため、城にはより広い堀が必要となったのだ。しかし、急峻な山にはとてもそんな場所がない。こうして、城は広い堀を求めて、なだらかな山や丘、平野へと「下りて」いったのだった。

信長、秀吉によって天下が統一されると、各地の陣取り合戦はなくなり、諸大名の軍勢は国の秩序を維持するために使われるようになる。大名たちは将軍の命令にすぐに対応できるよう、城に常備兵を置き、自らも城内に住むようになった。こうして城には、軍事拠点としてだけでなく、住居としての役割が求められるようになったのである。

そしてシンボルへ

本格的な近世城郭は信長の安土城によって完成したとされる。水堀に囲まれた城内に石垣を多用し、書院造を応用した壮麗な「天守」を築いた。城の代名詞のように思われている天守だが、歴史上で天守に住んだのは信長だけのようだ。信長の跡を継いだ秀吉は大坂城の本丸御殿で生活し、天守は来客用だったという。家康にいたっては客を上げることもなく、もっぱら外観の巨大さを見せつけるため、つまりは自らの権勢を知らしめるためのものだった。環濠集落や土の城が敵の侵攻を物理的に食い止めたのに対し、天守はその圧倒的な存在感によって、精神的な「カベ」をつくりだしていたのかもしれない。

オフィス街にそびえる高層ビル。そこに、天守のような威厳を感じるのは雇われ人の習性か。天下統一はかなわぬにしても、一度くらい「一国一城の主」にはなってみたいものだ。

参考文献

齋藤慎一・向井一雄 著
『日本城郭史』 吉川弘文館 2016年
三浦正幸 著
『城のつくり方図典 改訂新版』 小学館 2016年
三浦正幸 監修
『学研雑学百科 お城のすべて』 学研 2010年
西股総生
『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』 KKベストセラーズ 2016年
五味文彦・鳥海靖 編
『もういちど読む山川日本史』 山川出版社 2009年
今泉慎一
『城巡りが10倍楽しくなる おもしろ探訪 日本の城』 扶桑社 2015年

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