これからの時代の「時間デザイン」
―管理する時間から、デザインする時間へ―

  • 日 時:2019年11月3日(日)15:30~16:20
  • 会 場:銀座 伊東屋 本店 G. Itoya 10F HandShake Lounge
  • 講 師: 千葉大学大学院人文科学研究院 教授 一川 誠 氏
    日本能率協会マネジメントセンター 代表取締役社長 張 士洛

1949年、時間管理のツールとして誕生した「能率手帳」。高度経済成長を支える当時のビジネスパーソンたちは、緻密な時間管理によって、生産性を上げることが重視されてきました。そして70年を経た今日、人々の価値観は多様化し、自分らしく豊かな時間を過ごすことが大切な時代になっています。今回のクロストークでは、時間学研究の第一人者、千葉大学の一川誠教授をお招きし「心で感じる時間の不思議」に迫りつつ、豊かな時間を過ごすためのヒントを探りました。

テーマ1 時間管理 × 時間デザイン

時間デザインとは

張:きょうのキーワードはただ1つ、タイトルにもありますとおり、「時間(とき)デザイン」です。
1949年からはじまった能率手帳は、2019年に70周年を迎えました。能率手帳は、効率的な時間管理や生産性向上のためのツールとして、戦後の日本の経済や産業の成長発展とともに歩んできましたが、これからの時代は、単に時間を「管理」するのではなく、「デザイン」することが求められているのではないか、という問題提起が「時間デザイン」です。
きょうは、私たち一人ひとりが自由に、豊かに、そして自分らしく「時をデザインする」をするためにはどうすればいのか。それを皆さんと一緒に考えていければと思っています。
トークのお相手の一川誠先生は、千葉大学文学部で心理学的なアプローチから時間についての研究を進めておられるので、時間デザインについてもさまざまなご提言をしていただけると思います。
それでは、1つめのテーマである「時間管理」と「時間デザイン」について、一川先生に伺いたいと思います。

一川:時間をどう過ごすかというのは、人間の生き方そのものですよね。そこに、人それぞれの裁量でデザインという要素を入れていく。そういう視点で時間を捉えていくというのは、おもしろい発想だと思います。時間管理のなかでは、最近、「時短」というテーマがよくいわれますが、単純に長さの問題ではなくて、「どう過ごすか」が大事になってきますね。

張:時間を「どう過ごすか」は、まさに「デザイン」の部分だと思いますが、デザインという言葉の語源は、ラテン語の「Designare(デジグナーレ)」で、その意味は「計画を記号で表すこと」。計画、つまり「どう過ごすか」という時間の組み立てを指していたともいえますね。
なお、東洋と西洋とでは、時間の捉え方そのものが少し違うのかもしれません。英語だと、時間を表す言葉はおそらく「Time」だけだと思いますが、私たちは、「時間」と「とき」を併用して、ときに情感を込めて使っています。夕暮れ時、ひと時、あの時など、表現も豊かですよね。こうした東洋的な情感も踏まえて、「時間デザイン」を、あえて「“とき”デザイン」と呼んでいるのです。

一川:私は、心理学的な立場から時間の感じ方について研究していますが、これは「時間デザイン」とも密接にかかわってきます。きょうのトークを通じて、いくつかご紹介できればと思います。

テーマ2 時計の時間 × 感じられる時間

時間が伸び縮みする7つの要因

張:さて、つぎのテーマは、「時計の時間」と「感じられる時間」です。「時計の時間」というのは、物理的な時間、絶対的な時間で、1分とか1時間の長さが変化することはありません。これに対して一川先生がご研究されている「感じられる時間」は、体験的な時間であり、さまざまな状況によって伸びたり縮んだりするものです。
たとえば、このイベントのプログラムは時計の時間では50分ですが、長く感じる人もいるでしょうし、短く感じる人もいるでしょう。

一川:そうですね。「感じられる時間」は、時計の時間とは違って、同じ50分でも長く感じたり、短く感じたりすることがあります。つまり伸び縮みするのですが、どんなときに伸び縮みするのかについて、主な要因を7つ挙げてみました。まず、この7つについて順にご説明したいと思います。

<図表1 時間が伸び縮みする要因>
  • 1)実際に経過した時間
  • 2)身体の代謝
  • 3)体験される出来事の数
  • 4)時間経過に向ける注意の回数
  • 5)他の知覚様相における刺激量
  • 6)感情
  • 7)繰り返し回数
  • その他
1)実際に経過した時間

当然のことですが、実際に経過した時間が1分間なのか1時間なのか、あるいは1日なのか――実際に経過した時間の長さは、感じる時間にも影響します。

2)身体の代謝

続いての要因は代謝です。動物は身体のどこかの場所で、時間の経過に合わせて一定の周期でパルスのようなものを発振しているのだろうと考えられています。これは代謝とも関連しており、身体がよく動く代謝が高い状態では、より早い周期でパルスを発振し、逆に代謝が落ちてくるとパルスの発振ペースも落ちると考えられています。
そして、代謝は身体の状態によって変動します。たとえば、朝起きてすぐは一日の中でも代謝が低い時間帯ですが、午後3時とか4時くらいの夕方の時間帯になると、代謝は高くなります。ですから、朝に感じる1分間と夕方に感じる1分間では、長さが違ってくるのです。朝、出勤や通学の前に慌ただしく感じるのは、1日の中で代謝が低い時間帯だからです。
また、代謝というのは一日の中だけでなく、子どもの頃のほうが激しく、大人になるにつれて下がっていくというように、一生を通じても変動しています。体温が高いと代謝も高いのですが、それが19歳くらいを境に、だんだんと低くなっていくのです。
ほかにも、代謝が変動する要因があります。たとえば、インフルエンザにかかって高熱を出しているときは代謝が激しくなります。ですから、熱にうなされて眠って起きたときに「もう朝かな」と思っても、実は大して時間が経っていないというようなことが起こります。ほかにも、運動をすると代謝は上がるので、感じる時間は比較的ゆっくりになります。お風呂や温泉に入って温まるのもそうですね。時間をゆったりと感じて過ごすためには、代謝を上げることが効果的なのかもしれません。

3)体験される出来事の数

同じ時間であっても、出来事が多いほうが時間は長く感じられ、少ないほうが短く感じられます。バスケットボールを床につくという簡単な動作を撮影して、スローモーションと早回しのそれぞれの速さで再生した映像を見比べるという実験があります。両方とも同じ4秒間の映像ですが、スローのほうはボールを1回しかつかないのに対して、早回しのほうは、何回もボールをつきます。それぞれを見比べると、早回しのほうが時間が長く感じられます。早回しのほうは、ボールを床につくというイベントの回数が多いので、時間が長く感じられると考えられます。
この実験は4秒間ですけれども、これが1時間、1日、あるいは1年の過ごし方で考えるとどうでしょうか。イベントの数が多いほうが、時間が長く感じられるといえないでしょうか。

4)時間経過に向ける注意の回数

きょうのような講演会や会議では、「早く終わらないかな」と時計をちらちら見てしまうことがあると思います。実は、そうやって時間経過に向ける注意の回数が多いと、心理的には時間はどんどん間延びしていくという皮肉な現象が起こることがわかっています。逆に、集中していると、気がついたら時間が経っていて「時間が経つのが早いな」と感じます。
先日のラグビーワールドカップで、日本対スコットランドの試合を観戦した人も多いと思いますが、スコットランドに追い上げられた最後の10分間は、時間が進むのが遅くて何度も時計に目がいったのではないでしょうか。時間経過に注意が向けられる回数が多いと、時間は間延びするという典型例でしょう。

5)他の知覚様相の刺激強度

人間以外の動物の場合はどうでしょうか。人間のように時間を認知していない動物たちは、目に入ってくる情報量を参考にして時間の長さを判断していると考えられています。あまり合理的とはいえませんが、図表2のように情報を処理しているようです。

<図表2 他の知覚様相の刺激強度>

黒背景のなかに白い丸が1つ出ているものと、2つ出ているものがあります。それぞれ1秒間表示させて、どちらの方が長く感じたかを選ばせると、物理的な時間は同じでも、丸が2つあるほうが長く表示されていたように感じるのです。右側には、丸が8つと9つのものがありますが、これらを見比べたときも、1つでも多いほうが時間は長く感じます。
これは、数だけではなく面積や明るさでも同じです。数字も、より大きい数字が出ているほうが長く感じます。なぜこのような処理をするのかについては、まだよくわかってはいないのですが、時間を直接知る材料がない場合は、行き当たりばったりで量的な情報は何でも使うようです。だから人間でも時間の見積りを間違えることがよく起こるのです。

6)感情

図表3を見ると、ドキッとする方もいるかもしれませんが、こういう場面に出くわすと、時間が間延びすることがわかっています。とくに恐怖感情は、時間を延ばす効果があります。実際の体験でなくても、画像を見たり、話を聞いたりして恐怖の感情が引き起こされれば、時間は間延びします。また、喜びの感情や怒りの感情も、時間を延ばすことがあります。

<図表3 特に強い恐怖は時間を長く感じさせる>

7)繰り返し、慣れ

繰り返し・慣れというものが、時間の長さの感じ方にとても影響しているということもわかっています。図表4は、同じ靴の写真を0.5秒の間隔で何回も繰り返し見せるという実験です。これを繰り返すと、だんだん時間が短く感じられるようになります。また、途中でまったく関係ない別の画像をはさむと、その間は10~20%くらい時間が間延びしていたと感じられます。繰り返されていない新しい出来事は、長く感じ、繰り返されている事柄はだんだん短く感じるのです。

<図表4 繰り返し、慣れ>

テーマ3 大人時間 × 子どもの時間

ときめきを感じる時間をいかにしてつくるか

張:7つの要因から、「時計の時間」と「感じられる時間」の違いを実感していただけたのではないかと思います。
先日、NHKの「チコちゃんに叱られる!」で大人と子どもで感じる時間の長さの違いについて取り上げたときに、一川先生は解説者として出演されています。きょうの3つめのテーマとして、あらためて大人と子どもで感じる時間を比べたときの違いについて考えてみたいと思いますが、いかがでしょうか。

一川:一般的には、大人の時間は短くてあっという間に過ぎていくのに対して、子どもの頃の時間はゆっくり過ぎていったと感じている人が多いと思います。その理由は、先ほどご紹介した7つの要因でだいたい説明できます。
まず1つめは代謝です。おおよそ19歳くらいを境に代謝は下がっていきますが、これによって感じられる時間はどんどん短く変化していく。
2つめは、体験されるイベントの数です。たとえば食事でしたら、大人の場合は朝食であろうと昼食であろうと、毎日同じ「食事」として捉え、さして特別なイベントとは考えません。一方、子どもは、たとえばスパゲッティが出てきたら触って遊んだり、あるいは牛乳をひっくり返してお母さんに怒られたり、食べるだけではなく、複数のイベントを経験していることになるのです。
そして、繰り返しの回数という要因もあるでしょう。「チコちゃんに叱られる!」では、大人になると時間が短く感じられるのは、特別性が失われるからだと説明しました。子どもの場合は、同じ「食事」というイベントでも、単なる繰り返しではなく、常に新しい特別な体験をしているということになります。

張:大人が子どもの頃のように、ときめきを感じる時間を過ごすためには、どんな工夫が必要でしょうか。

一川:繰り返しやルーチンが多くなると、どうしても時間が短く感じられるようになってしまいます。ですから、意識して新しい体験を増やすことが大切なのではないでしょうか。身近なところでは、ときどき通勤ルートを変えてみるとか、人から誘われたことはあまり断らないようにするとか、そういうことを意識していると、常に新しい体験になると思います。
新しい体験をして、その時間がさほど楽しくなかったとしても、何も思い出すことのない、いつもと同じように過ごした時間よりは、充実していたという心理的満足度を味わうことできるはずです。

張:仕事だって、毎日同じように見えても、ちょっと見方を変えてみれば、新しい世界が広がるはずですよね。
余談ですが、日本能率協会マネジメントセンターでは、「ワーケーション」という取り組みを支援しています。これは、リゾート地などでテレワークをしながら同時に積極的に遊び、さらに学びの要素も入れようというワークとバケーションを組み合わせた造語です。そこでは、仕事が終わったらリゾート地のビーチでのんびり過ごすとか、週末はみかん狩りをするとか、都会で働いていてはなかなかできない、いわば「大人のときめき体験」が含まれています。こういったことも、まさに時間デザインの一環だととらえています。

一川:いいですね。積極的に新しい経験をするとか、同じような仕事でもチャレンジしてやり方を変えるといった努力によって、より有意義な時間として認識できるようになるでしょう。

張:新しい体験という大事なキーワードが出ましたが、体験したことを記録するという意味では手帳の使い方も大切ですよね。その日のイベントや出来事だけではなく感情も書き入れて、あとで振り返ると、時間の感じ方も変わってきたりしませんか?

一川:記憶というものは時間の経過とともに薄れていくものなので、手帳に書くことによって情報を記録として残しておくのは、とても大事だと思います。人間の記憶は、時間が経つと失われてしまうばかりではなく、事実と違うようにつくり変えてしまうこともあるのです。でも、手帳のような形で残しておくと、そういった改ざんは避けられます。また、自分にとって充実した時間を過ごせたという大事な手がかりにもなりますね。

テーマ4 濃い時間 × 薄い時間

脚本家ならではの表現

張:次のテーマは、「濃い時間」と「薄い時間」です。いま手帳の話になりましたが、NOLTYのダイアリーを四半世紀以上お使いになっている脚本家の岡田恵和さんという方がいます。NHKの朝の連ドラ「ひよっこ」を手掛けられるなど著名な脚本家で、先日紫授褒章を受賞された方ですが、この方にインタビューした際に、大変面白いことをおしゃっていました。私も実際に手帳を見せてもらったのですが、手帳のスケジュール欄に記入してある文字が濃いものと薄いものとがあるのです。これはなぜかと聞いてみると、「あまり会いたくない人との予定は字が薄くなる」とおっしゃっていました(笑)。脚本家らしい表現だと思ったのですが、時間にも「濃い」「薄い」というのが、たしかに存在するような気がしています。

一川:面白いですね。時間は、過ごし方によって有効に感じたり、無駄に感じたりします。また満足度も、過ごし方によって変わってきます。そういう過ごし方の違いが、濃い・薄いという表現につながったのではないでしょうか。

張:その過ごし方について、補足していただけますか。

サーカディアンリズムの影響

一川:先ほど代謝のところで少し触れましたが、「身体時計」とか「生物時計」と呼ばれているものがあります。これは、パルスとはまた別のもので、サーカディアンリズムと呼ばれています。実は、全身の細胞すべてに時計のような働きをする機能が備わっているのですが、それがバラバラに機能してしまわないようにコントロールしている場所があると考えられています。それが、脳下垂体のすぐそばにある、視交叉上核(しこうさじょうかく)です。視交叉上核の働きを研究した人たちがノーベル医学生理学賞を受賞していますが、脳の中できわめて重要な機能を果たしている場所で、ここに全身を統括する生物時計があると考えられています。この生物時計が、おおむね24時間周期のサーカディアンリズムを司っているのです。

張:サーカディアンリズムを研究すると、どの時間帯に何をすればいいといったようなことがわかるのでしょうか。

一川:午後4時くらいの時間帯であれば、筋肉運動をもとにした動きや作業が向いています。たとえば、陸上の短距離走は、このくらいの時間帯に特に成績が良くなることがわかっています。逆に、朝方や深夜、あるいは午前2~3時といった未明の時間帯は大きく低下します。
また、図表5は、フォスターとクライツマンという人が書いた、『生物時計はなぜリズムを刻むのか』という本から引用したもので、病気などが発症しやすい時間帯を一覧表にしたものです。
たとえば、ぜんそくの発作は午前2時から4時くらいに、花粉症のくしゃみとか狭心症や心臓発作は朝の通勤時間帯に重なる午前6時から8時くらい、虫歯で歯が痛くなるのは午後10時過ぎくらいというように、24時間周期で発症しやすい症状も変わるということがわかります。
身体だけでなく、精神活動も24時間周期の特徴を持っていることがわかってきました。電話番号や英単語の暗記といった短期記憶は、代謝が上がる夕方以降がよく、それに対して難しい数学の問題を解いたり、難しい本を読んだりといった論理的な判断能力を必要とする勉強は、午前10時くらいから午後2時くらいまでの成績が高くなることがわかっています。
また、サーカディアンリズムには24時間のリズムとともに、12時間周期のリズムもあることが、最近になってわかってきました。なお、眠気はどうも12時間の周期で訪れるようで、午後1時とか2時くらいの時間帯がそれにあたります。

<図表5 さまざまな疾病などの発症と時間帯との関係>

張:お昼過ぎに眠くなるのは、お腹がいっぱいになるからではないんですね。

一川:昼食後の消化などが原因と思われていましたが、実はそうではなくて、サーカディアンリズムの影響のようです。こういう身体の特徴や精神活動の時間の特徴を理解すると、エラーを防いだり、短い時間でより成果を上げたりすることができますね。

張:最近、ビジネスパーソンの間でも、早朝に出勤する「朝活」をする人も増えてきていますが、これはいかがでしょうか。

一川:睡眠時間を削るくらいなら、朝活はしないほうがいいです。記憶や学習したことが脳に定着するためには、適切な時間睡眠をとる必要があります。眠っている時間というのは、何もしていないのではなくて、日中に学習したことを脳に定着させているのです。

張:エラーの起こりやすい時間についてはいかがでしょうか。

一川:Garbarinoら(2001)の調査では、イタリアの交通事故の事故件数を時間帯ごとに調べています。この調査によると、居眠り事故の発生件数は、午前2~3時と午後1~2時がピークになっていました。交通量が多いところで事故が起こりやすいのは当然なので、それを加味した相対的危険率も、午後2時くらいにピークが出ました。
なお、研究者たちの間ではよく知られているのですが、チェルノブイリ原発事故やスリーマイル島原発事故、スぺースシャトルのチャレンジャー号の打ち上げ失敗といった重大事故は、未明の時間帯に重要な判断をしていて、それがよくなかったという研究報告があります。よって、この時間帯に大事な意思決定をするのは適さないということになります。
またMitler & Miller (1996)の研究では、スウェーデンのガスメーターの会社の読み取りエラーの件数が紹介されていてやはり、未明(午前2時頃)と午後の早い時間帯(午後2時頃)にガスメーターの読み取りエラーが集中していることが示されています。

張:エラーの発生しやすい時間は避けたくても、そうはいかない仕事もたくさんあると思います。細心の注意を払うしかないということですね。

一川:今後はAIも発達してきますから、そういう時間帯は機械の判断で代替するといったことも必要でしょうね。

テーマ5 過去の時間 × 未来の時間

同じ失敗を繰り返さないためには

張:最後のテーマは、「過去の時間」と「未来の時間」です。私たちは、過去の時間も大事にしながら、未来の時間デザインをしていくことを提唱しています。先ほど一川先生は、記憶は時間がたつと改ざんされてしまうことがあるとおっしゃいましたが、過去の時間をよりよい時間として記憶に留めるための工夫などありましたらお聞かせください。

一川:人間は課題に取り組もうとするときに、時間を少なく見積もってしまう傾向があり、心理学的には「計画の誤謬」として知られています。なぜそうなるのかというと、まず、自分の能力を高く見積もる傾向があるからです。もう一つは、不測の事態を間に合わない理由にすること。締め切りに間に合わなかったのは、自分の能力のせいではなく不測の事態のせいだという言い訳です。さらに、「失敗した」という記憶は残りにくいため同じ失敗を繰り返してしまう。
これを防ぐためには、失敗を不測の事態のせいにせず、時間の使い方が良くなかったと反省することが大切です。具体的には、間に合わなかった理由を手帳に書いて残しておくことです。そうすれば、それをもとにして自分はこれくらいオーバーしやすいから、余裕を持って行動しようと考えられるようになるはずです。

張:手帳に失敗の記録も記入しておくことで、学習効果が高まるということですね。

一川:失敗から学ぶということは、時間の使い方だけでなくて、いろいろなことに関して言えますよね。意識しないとなかなかできないことなので、繰り返し同じ失敗する人は、まず記録に残して、自分自身を客観的に振り返りながら行動を修正していくことが大事だと思います。

中高生たちの豊かな発想と時間デザイン

張:「過去の時間」と「未来の時間」というテーマについては、ひとつご紹介したいことがあります。私が、時間デザインについて考えるきっかけになったのが、「スコラ」という中高生向けの手帳です。これは、大人向けの手帳とはちょっと違っていて、将来の目標や夢を描くという、とても素晴らしい手帳です。このスコラを使っている中高生を対象に、毎年「手帳甲子園」というイベントを開催していますが、その発表会を見たときに非常に感銘を受けたのです。そこで、その手帳甲子園の作品例をいくつか紹介させていただきます。
図表6は、一昨年優秀賞を受賞した青森県の女子生徒さんの手帳です。彼女は簡単に言うと学びが深い。インスタグラムから、他の人の手帳に刺激を受けて、自らの学びに変え、自分が進化成長を遂げていったという例です。
図表7は、大賞をとった手帳ですが、ポイントは夕食時間を午後7時に固定して絶対にずらさないことでした。これをお母さんにお願いして、自分の時間を組み立てました。彼女は、大きな無地のキャンバスに夕食の時間という1本の軸をつくって、そこから全体をデザインしています。これは従来の時間管理では絶対に思いつかないような発想です。
図表8の手帳のポイントは、ビジュアルです。右上に自分の目標が書いてあるのですが、擬人化した漫画のキャラクターに、自分へのメッセージを投げかけてもらう。それでセルフモチベーションを日々高めているんです。こういった発想も、大人はなかなか思いつきません。

<図表6 第6回手帳甲子園・優秀賞受賞作品 青森県三沢高等学校2年生>

<図表7 第6回手帳甲子園・最優秀賞受賞作品 創価高等学校1年生>

<図表8 第5回手帳甲子園・最優秀賞受賞作品 中野区立第十中学校>

スコラ手帳のもう一つのテーマはPDCAですが、中高生たちは、PDCAを超越しています。なぜかというと、Plan→ Do→ Check→ Actionというサイクルに加えて、もっと大事な「ゴール」が必ずあるからです。そこで、G・PDCAという言葉が生まれました。さらに、彼らは右上にDを書きます。これはDoではなくて、Dreamです。ゴールや夢を描いてPDCAを回している彼らは、まさに時間デザインを実践しているのです。
大人も同じことをできるはずですが、毎日仕事に追われてGoalやDreamを見失っている。だから、あっという間に時が過ぎ去ってしまうのではないか。
きょうのテーマの「時間デザイン」は、時間の管理やマネジメントからデザインへという変化だけでなく、「タイムイズマネー」から「タイムイズライフ」へというパラダイムシフトも意味します。冒頭で一川先生が、時を「どう過ごすか」を問い直すべきだと示唆されましたが、皆さんもご自身の過ごし方を問い直し、ご自身の時間デザインを考えてみていただきたいと思います。